過疎問題を考える7

ひかり114号(R3.7.1)

~災害時のお寺の役割と有効活用~
 
 那智勝浦町に臨済宗妙心寺派の大泰寺(西山十海住職)という寺院があります。
5月に、紀南組のある寺院からの相談依頼を受け、その帰りに訪問させていただきました。
このお寺では2年前から庫裡を開放して、宿坊を経営し始めました。「お寺ステイ」という事業です。簡易宿泊所いわゆる民泊は収益事業なので、寺院規則の変更や所轄庁(県)、包括宗教法人(本山)への認許などの申請や宿泊事業の届け出などで時間と労力が費やされ、立ち上げまでにかなり苦労されたと伺いました。
 そもそもこの事業を始めようと思ったきっかけは、今からちょうど10年前の2011年9月に上陸した台風12号による太田川の氾濫で、お寺周辺の集落が床上浸水などの甚大な水害があり、集落の高台にある本堂や境内地を被災者の避難場所として活用できないか模索していたとのことでした。
 そこで日頃から宿坊として観光客などを受け入れていれば、万一の災害時に地元住民などが避難されても十分に対応できるのではないかと西山住職は考えられたそうです。
 老朽化した庫裡の改修、鳥小屋を座禅道場に改修、風呂、トイレ、洗面施設の整備など借入金でまかない、お寺に宿泊した方が、座禅や写経の体験など本堂や境内地で過ごし、お寺や仏教に親しんでほしいとの思いで取り組まれています。
 昨年からのコロナ禍で県外・海外からの利用客が激減したため、助成金を活用して、今年新たにキャンピングカーなど5台が外部電源を使用できる設備など整備され、アウトドアブームに便乗して、テントエリアとともに県内外の客にも利用してもらおうと取り組まれています。
 
 住職のお話をお伺いしているうちに参考になったのは、その周辺にある廃寺となった寺院の活用について、オートキャンプ場など境内地を活用して収益を上げ、お寺の維持費などに充てることで、檀家さんの負担軽減につながるのではないかとお話いただいたことです。電気・水道・トイレ・シャワー室など最小限の設備投資で運営できる点では、すぐにでも始められる事業なのではと思います。
 大泰寺に合併したものの、廃寺となった伽藍を檀家さんで維持されている現況から考えると、本堂や境内地を活用した収益事業ができれば、これほどありがたいものはないでしょう。ましてや無住寺院ということで治安維持が不十分な点を、オートキャンプ施設という人の出入りが頻繁に行われていることで、その不安も払拭されるかもしれません。
 教区内でも、風光明媚な山間いや海岸筋に無住寺院が点在しています。伽藍や境内地を有効活用できる方法として今後一考の価値があるように思います。
 今回の訪問で、過疎地域における寺院としての役割と災害時の備えを平時より考えておかねばならないこと、また都会では味わえない田舎ならではのお寺の魅力を再確認させていただきました。