はじめに

 特別養護老人ホームときわ寮川辺園に勤務していたころ、入所者のみなさん相手に生活相談員という仕事をさせていただきました。赴任した頃の園長さんは、地元日高川町(旧川辺町)の山本謙一先生という方で、音楽教師として長く教鞭を執られ、定年後もこのホームで、お年寄りをホールに呼び寄せ、毎朝エレクトーンの伴奏をしながら、唱歌をはじめ、演歌や流行歌にいたるまで一緒に歌ってらっしゃいました。園長さんは毎月行う月例法要の法話を熱心に聞かれ、法要が済むと、「楠原君、今日のお話の中で、頭が下がるのと、頭を下げることの違いがよう解ったよ。この歳になっても本当に頭が下がる有り難さのわかる人間にはなれんもんやなあ」
などとよろこばれ、ある時私が法話のレジュメを走り書きしているとそばに寄ってきてふと、
「今までのお説法をきっちり文書に残しとかなあかんで。せっかくの法話やから」
とお世辞ながらに強く勧められ、とりあえずはと毎月要約したものをファイルに綴じ込んでおきました。
老人ホームでの入所者に対する「法話」ですので、真宗教義にほど遠い内容のものもあり、「法話」とはいえないと叱咤を受けることは承知しておりますが、入所されているお年寄りとのふれあいの機会で、寝たきりや認知症の方々からは『いのちの尊さ』を学び、また日ごとに衰弱し先逝してゆかれた方々には『無常の理』を間近で観るなかで、それぞれの『いのち』を想いながらお話ししてきました。
 入所されている方は施設という限られたスペースの中で生活されており、冷暖房の完備された屋内では、四季の移り変わりや社会の動向などに無関心になりがちで、そうしたことからもできるだけ、季節の花木や、出来事、行事等を話題に取り入れて関心を誘ってきました。
 平成18年に居宅介護支援事業所を拙寺で立ち上げ、現在は一人ケアマネとして利用者の方々一人一人と向き合い地元で支援業務に従事しておりますが、二十数年間の福祉畑での活動を振り返る事の大切さを感じとり、この原稿を繰り返し読むことで「初心不可忘」を確認してきました。
このたび法話集としてホームページに出稿する機会をいただきました。すべてを掲載すればいいのですが、重複した内容のものも多々あり月例法要の意味合いからも毎月の法話として、ひと月ごとにまとめました。
 二十年以上前の原稿もあったのですが、『心に一滴の潤いを』との想いからまとめた次第であります。つたないものですが暇つぶし程度でお読み頂ければと思います。     合 掌